友人に死後のことを頼みたい
私は現在77歳です。夫も子もなく、長年一人暮らしをしてきましたが、癌のため現在入院中です。その間、友人がいろいろと世話をしてくれ、本当に感謝しています。私は、この友人に病院の支払いもしてくれるよう頼み、残高が約300万円ある預金通帳と印鑑を預けてあります。この際、残る銀行預金もすべて彼女に差し上げて、その代わりに私の葬式と四十九日法要をお願いしようと考えています。 私の身内と言えば甥が1人だけおりますが、付き合いはありません。ところが、唯一の親族なので、私の死後、甥が友人と遺産のことでトラブルを起こすのではないかと心配です。 |
■ 「委任契約」は死後無効になる
まず、このケースにおける甥は、間違いなく法定相続人になります。
この甥の立場を忘れると、友人が困ることになる可能性があります。
さて、現在この友人に頼んでいる病院への支払い代行ですが、これは法律上は「委任契約」と言って、委任者の死後はその契約は自動的に消滅します。
したがって、現在の口約束を守ろうと、友人が委任者の死後も病院の支払いを預かっている通帳から行いますと、相続人の権利を侵害するおそれがあります。
言ってみれば人のお金を勝手に使ったことになってしまうのですが、これではあまりにもこの友人がかわいそうです。
さらに、故人の遺志どおりに葬儀などを行いますと、これも甥の相続権を侵害することになりかねません。
葬儀は必要欠くべからざることとは言っても、この甥に無断でお金を使ったとみなされ、下手をすれば損害賠償請求を起こされかねません。
こんなことになっては、友人の恩を仇で返すことにもなりかねないわけです。
■ 「負担付遺贈」の遺言を書く
甥は遺留分を有していないので、遺言でこの友人に遺贈をし、その代わりに入院費の支払い、葬儀・法要の執行をお願いするのは良い方法です。
上記のような遺言をすれば、委任契約と異なり当然に死後に有効になることですから、甥は文句のつけようがありません。
ただし、負担を要求する内容ですから、生前に友人の同意を取り付けておくほうが安心です。
なお、遺言は公正証書遺言に、遺言執行者は信頼のおける弁護士を指定することをお勧めします。
昨今は高齢化社会と言われ、同時に少子化が危ぶまれています。
このケースのように身寄りのない老人はこれから増え続けることでしょう。
法律をよく知ることが重要になってくると思われますが、「委任契約詐欺」なども同時に増えることがないことを祈りたいものです。
遺言書文例
遺言書 遺言者山田花子は、次のとおり遺言する。 一、遺言者は、川尻智子(住所・生年月日)に遺言者名義の四山銀行青坂支店の普通預金から金300万円を、下記の負担をすべて履行することを条件に遺贈する。 記 受遺者川尻智子は、遺言者が入院していた留池総合病院の費用を支払うこと、遺言者が死亡した場合に葬儀を行うこと及び遺言者の四十九日法要を執り行うこと。 二、遺言執行者として弁護士樋田賢治(住所・生年月日)を指定する。 平成25年5月25日 東京都港区青坂1丁目899番地 遺言者 山田花子 印 |