遺留分を侵害する遺言

私には妻と2人の子がおります。子は独立し、特に何不自由ない暮らしができていますので、特に多くもない私の遺産を譲る必要はないと考えています。ところが、甥に当たる子が重度の自閉症で、一生介護が必要な身の上であることが心配で、この甥に財産を譲りたいと思っています。
子が憎いわけではなく、遠縁とも言えない間柄にあるこの可哀想な甥のことがあっての思いです。子にも納得してもらい、妻と甥だけに遺産を残す方法はあるでしょうか。

■ 「遺留分」は侵害できない

このケースでは、妻と子が存命ですので、妻が遺産総額の4分の1、子には4分の1(1人あたり8分の1)が「遺留分」となります。

原則的には、財産の処分は所有者の自由です。
が、財産の公平な分配と遺族の生活保障の見地から、兄弟姉妹を除き、相続人には「遺留分」を規定し、これを侵害してはならないという規定があります。
「侵害する」とは、規定の取り分を与えないことを指します。

結論すれば、「妻と甥に全財産を」ということは、少なくとも2人の子の遺留分を侵害することになり、そのように遺言しても、遺言は無効にはなりませんが、子らが当然の権利を主張することも妨げません。
もっとも、子が遺留分を主張せず、「お父さんの遺志どおりに」と言ってくれれば、遺言者の意思は100%実現することになります。

それに対し、子が「遺留分減殺請求」を行えば、妻と甥は遺留分を侵害した分だけ子らに遺産を返す必要に迫られます。

また、「父の遺志を踏みにじるとは」など感情論も入り込み、訴訟に発展しないという保障はありません。

■ 遺留分を放棄させることができるか

遺留分は法律の規定だから守らないわけにはいかないと理解しても、さてそもそも、うちの子はそんなにわからず屋だろうか、という思いも、被相続人にはあるかもしれません。
たしかにそのとおりで、要するにどんな遺言内容にするのがよいのか、結局判断がつかないということになりそうです。

世の中には、「親の遺産をあてにするほど愚かなことはない」という”教え”もあるようですし、相続した遺産を自ら寄付する人もいなくはありません。
相続税の申告手続のあまりの煩雑さに辟易して、相続を放棄する人もあるほどです。
ある人には同意できても、ある人には理解できないことでもあるでしょう。
つまり、個別の事案に”一般論”だけを当てはめてみても、それは合理的であるとは限りません。

そこで、いっそ生前に子らの意思を確認し、またお父さんの意思も伝えてみてはどうか、という考えも成り立ちます。
子らが甥と懇意で、「そうしてくれれば俺たちもそんなうれしいことはない」と言ってくれないとも言い切れません。

もし子らが「遺留分の事前放棄」に同意してくれたならば、気が変わらないうちに家庭裁判所に手続の申請をします。
ただ、この手続にはある程度高度の法律知識が求められるので、弁護士の手助けを求めるのが無難です。

さらに遺言書には、相続人ではない甥に「〇〇銀行の預金の全部を遺贈する」などと明記します。
公正証書遺言にしておけば万全ですが、そうでなくとも(この時点での合意どおりなら)つつがなく相続税の申告手続も完了するでしょう。

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