認知症の状態での遺言は有効か

先日父が亡くなりました。アルツハイマーと診断され、自宅にはおりましたが寝たきりに近い状態で、長男と共に暮らしていました。ところが長男は、父の死後きょうだい全員を前にして、父が書いた遺言書があると言い出しました。そこには、「すべての財産は長男に相続させる」と書かれてありました。
日付を見れば、父がアルツハイマーになって何年もあとのものでしたので、これは長男が、正常な判断力のない父を騙して書かせたものではないかと思っています。こんな遺言でも有効なのでしょうか。

■ 「遺言能力」

遺言がどのような意味を持つのか、法的にどのような効力を発揮するのかを理解できる能力のことを「遺言能力」と呼びます。
遺言能力が無い状態で書かれた遺言は無効となります。

遺言者が遺言した時点で遺言能力がなかった、いやあったと争いになることはしばしばあります。
こうなった場合は、当事者だけでは単純な水かけ論に終始することが多く、訴訟に発展するケースも多くなります。

傍から見て遺言能力がないと思える状態でも、実際にはある場合もありえるでしょうし、当然にその逆もあります。
要するに、本人以外にはどこまでも明確にわからないことだということです。

例えば、お父さんに遺言を書いてもらおうと思ったところ、まったく意味がわからない様子で、これでは無理だときょうだい全員が諦めたところ、後日長男が頼んで書いてもらったと主張するような場合なら、医師の意見なども聞いて、客観的に判断できる可能性がありますが、状況がさらにあいまいな場合はなおさらに協議は紛糾するに違いありません。
つまり、裁判で一応の決着がついても、きょうだいの間にしこりが残るのではないでしょうか。

遺言者にしても、本当の自分の意思であるにもかかわらず、そうではないと思われるとしたら心外のはずです。
要するに、どうせ遺言をするなら、誰もが受け入れざるを得ない方式で作成すべきだということになります。

■ 無用の争いを回避するための「公正証書遺言」

ここまでで何回も「最も確実な遺言方式」として紹介してきたのが、「公正証書遺言」です。

公正証書遺言は、遺言能力のない状態で作成することは不可能です。
これに比し自筆証書遺言は、遺言能力のない状態で書くことはほぼ不可能ですが、偽造、変造されるおそれはぬぐいきれません。
実際に本人が書いたものであっても、誰かに言い含められわけがわからないまま筆を動かすということはありえるでしょう。

公正証書遺言は、実際の作成(筆記)は公証人が行ないますし、2人以上の証人の立会いも求められます。
この証人には相続人はなることができません。
原本は公証人が保管するので、偽造、変造しても原本と異なる内容になってしまいます。

遺言は、すればそれでよいというものではなく、どこからつつかれても疑いようのない形にしつらえるべきです。
そのためには、多少のお金と手間をかけても、公正証書遺言が確実で安心です。

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