生前贈与の分だけ相続分が少なくなる?

私の妻はすでに他界し、息子2人、娘2人がいます。私は会社を経営していますが、15年くらい前から長男が会社を手伝ってくれています。私は長男に会社を譲るつもりでもいますので、事業資金の名目で、今までに2000万円以上の援助をしてきました。
ところが、生前にこのような援助を行い、返済も求めていない場合は、長男が相続のときにその分を減らされると聞きました。長男は会社のために私からの資金を使ったのであり、長男だけをえこひいきしたわけではないので、その分が長男の相続分から差し引かれることがないようにしたいのです。

■ 「特別受益の持戻し」

民法では、生前に受けた一定の贈与を「特別受益」として、相続時にその分を差し引くことを定めています。
これは、相続人間の不公平を生じさせないための規定です。

例えば、遺産総額が9000万円だったとして、長男が親から生前にもらったお金が3000万円ある場合、遺産はこれを加えた12000万円とみなして分割が行われます。
これを4人の子で等分しますと、1人の取り分は3000万円となり、ここですでに3000万円を生前に取得している長男の取り分はゼロとみなされます。
残る3人がもらう遺産は1人当たり3000万円となり、みなし総額としての12000万円はこれでなくなるわけです。

このように、生前贈与分を遺産に加算して分割を行うことを「特別受益の持戻し」と言います。

なお、計算自体は上記のごとく行われますが、そもそも「何を特別受益とみなすか」で意見が対立するケースは珍しくなく、そのことだけのために調停や裁判に発展する可能性がありますので、特別受益とみなされる可能性のある贈与などがある場合は、遺言が必要になってくると考えることができます。

ところで、ときおり「お兄ちゃんだけかわいがっている」などと下のきょうだいが揶揄することがありますが、それが正確な批評であるとは限りません。
このケースのように、ほかのきょうだいに比べて家業に精を出し苦労もする中で、事業資金を親からもらったのですから、その分を遺産からまるまる差し引くのは妥当かどうか疑問が残ります。

■ 不公平感への配慮

ほかのきょうだいが「お兄ちゃんばかり」と思うのは誤解だということをわからせるような遺言(付言事項で訴える)を書けばよいということになりそうですが、人間の気持ちというものは単純ではありません。
実は、きょうだいが長男を嫉妬する理由が、事業資金のことばかりとは限らず、親がそれに気づいていないだけということも多々あります。

例えば、「お兄ちゃんの結婚式のほうが盛大だった」とか、「お兄ちゃんだけ私立の大学に行った」とか、「お兄ちゃんはクルマを買ってもらったが私は働いて買った」などなど、きょうだいに対する感性は恐ろしいほど敏感なものです。

長男の「特別受益の持戻しの免除」を遺言書に謳えば、上述のような計算は行われずに済みますが、その理由を訴える際には、父親が考えつかないような不公平感をきょうだいたちが持っているかもしれないということを念頭に、それでも長男の取り分は若干少なめに指定するなど、細心の配慮が求められるところではないでしょうか。

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